S-Scapeインタビュー

ボイスドラマことはじめ

―――同人音楽.infoのインタビュー企画として、ボイスドラマサークルをお呼びする、うまくいけば連続になるかもしれない(笑)企画「ボイスドラマの魅力と魔力について」の第一回目、今回は同人ボイスドラマサークル、S-Scape主宰の椎菜みそらさんに来ていただいています。インタビュアーは僕、文芸サークル「左隣のラスプーチン」の主幹、安倉儀たたたが務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。

椎菜:一人サークルなんですが主宰です(笑)よろしくお願いします。

―――さっそくですが、ボイスドラマを始めたきっかけを教えてもらえますか?

椎菜:もともと小説を書いていたのですが、書いて自分のサイトで公開しているだけでは限界があるなというか。あまり読んでもらえないなと思って。本の形になっているとそれでもまだ手にとってもらえるのですけど、サイトだと最初の一歩がなかなか踏み出してもらえないというか。やっぱり書いたからには見て欲しいなと思って、方法を模索していた結果がボイスドラマだったんです。ボイスドラマを知ったのは自分がボイスコをやってたからなんですが、私の書いた作品も見てもらいたいし、他の企画では役もらえないし(笑)、じゃあ自分で作っちゃおうかなと思ってたときに、ボイスコ仲間と教会ネタで盛り上がって、「よし、じゃあやっちゃうか!」と立ち上げたのが、一番最初に作った合同企画です。元々友人が同人ゲームのボイスコをやっていて「応募するからちょっとこれ聞いてみてくれる?」というのを何度か聞いて感想言わせてもらったりしてたので、そういう裏方というか、作る側も楽しそうだなー、って。

―――おお、すごい。小説からボイスドラマという発想はなかなかないと思います(笑) 今実際に企画運営されている形でのボイスドラマはどこで知ったんですか?

椎菜:見よう見まね、ですね。周りの作品を公開しているサークルさんを見つけて、とか、ボイスコで出演させてもらったりしたときに「あ、こういうふうにして作るんだ」と知ったり。

―――影響を受けた人とか、サークルさんとか教えてもらえますか?

椎菜NOMARKさん。ったのは四年前ぐらいですか? 「夜色異聞」をやっていた頃です。ボイスコとして応募して見事に落ちましたけれど(笑)ボイスドラマってすごいなぁと思ったのはこのサークルの影響が大きいです。
NOMARK

―――NOMARKさん以外にはどんなサークルが。

椎菜:最近目標にしているのは、ハーモスフィアさん。
ハーモスフィア

―――なるほどー。 NOMARKさんやハーモスフィアさんの魅力って、どういうところだったんですか?

椎菜:編集の良さ、完成度の高さっていうのもあるんですが、一番は独特の世界観。ファンタジーに近いんですけど、私たちの住む世界と完全に別物というわけではなく、いい具合に現実世界とファンタジーとが混ざり合っているというのが。

―――そうすると世界観なんでしょうか。作品は異世界的なんだけれど、同時に強い現実感とかリアリティがあるってことなんでしょうか。そういう作品は珍しかったんですか?

椎菜:そうですね。ボイスドラマではあまり見たことなかったんですね。あったことはあったのかもしれませんが、完成された世界観というのは初めて見ました。

ボイスドラマの作り方

――― 一本一本の企画って、どういう風に作ってらっしゃるのですか? 少し制作の順を追って話ていただければと思います。

椎菜:そうですねぇ。私の場合は、まず、「こんなキャラクターを作りたい」というのから入ります。そこから何話構成で、ここにこんなエピソードを入れて、というのを考えていきます。シナリオ書くのは全体が出来上がった後なんですよ。こんなキャラクターなんだけどどうしようっていう感じでイラスト描いてくれるかたにお願いしてキャラクターのイメージを固めます。私にとって話の中でキャラクターを動かしていくときにビジュアルって大事なんです。ビジュアルが固まってはじめて、シナリオをつくっていく。シナリオがある程度できたところで先ほど言った募集を開始します。『カフェブランシェの陽気な人々。』の場合は、ちょっとこの順番が変わって、イラストを描いてもらった佐藤一弥さんの描く女の子が見たいんだ!だからそれが見れる話を書くんだ!と。前の作品でも絵を描いてもらったんですが、その時は男の子二人だったんで。「佐藤さんが描くこんな子が見たいです」という願望からキャラクターを作ったんですが、ものすごくスムーズに出来上がりました。

―――絵師さんからは、いくつからラフを描いてもらって選ぶんですか?

椎菜:髪型だったり身長だったり雰囲気だったりというのはある程度伝えるんですけれど、あとは絵師さんにおまかせです。描き直しとかこちらから何か言うというのはほとんどないです。イメージがうまく伝わっているんだと勝手に思ってます。

―――サイトは自分で作られるんですか?

椎菜:そうですね。最近はテンプレート配布サイトさんのデザインをお借りすることもありますが、なるべくそのまま使わないようにしています。サイトも含めて自分の企画だと思っているので。

―――なるほど。声優さんを募集する段階で、もう脚本は全部できているんですか?

椎菜:募集が終わった時点では全部できていますが、募集を開始する段階ではいつも八割・九割です。きちんと完成させないといけないとは思うんですけどね。

ボイスドラマの作り方 その二

―――それから、企画者もいますね。これはどういう仕事をするのでしょうか。

椎菜:そうですね。公開している限りはリンク切れがないかというのはあるんですが、全部の話を公開するまでのメンテナンスが主な仕事です。

―――S-Scapeさんの場合は、特にCDにはしていない

椎菜:してないですねぇ。

―――そうするとウェブ公開のところが大事なわけですね。ボイドラオンエアーとか、ボイスドラマサーチエンジンなんかを使ってリスナーは聞きに来ると思うんですが、。あれはすべて自分で登録されるんですか?

椎菜:自分で、ですねー。紹介文とか宣伝文書くのがかなり恥ずかしいですけれど(笑)

―――(笑)

椎菜:恥ずかしいですー。

―――効果音とかBGMを集めるのも企画者のお仕事ですかどうやって集めてらっしゃるんですか? 作ってるんですか?

椎菜:あれはフリーで公開しているサイトがあるんですよ。結城雅さん、効果音源さんや、かるがも行進局さんなんかの音源を使わせていただきました。あとはちょっと自分で作ったり。カフェブランシェではですね、もう一人の編集の方が音源を自分で作ってらっしゃったので、そこからもお借りしていました。

―――「編集」というのはどういう作業をやられるのでしょうか?

椎菜:もらった音声が全部ばらばらじゃないですか。それを全部つなげて、一つの話にするという作業です。音楽でいうと編曲とかミックスとかの作業になるのかな。それを一人でやるのは大変なので、今回はお手伝いとして結城さんにお願いしていました。

―――それはつまり、話単位で仕事を分担させるということなんでしょうか。

椎菜:そうなんですよ。他のサークルさんではお一人でやられているところもあるんですけど、私の場合はなるべく短い時間で完成させたかったというのがあって、一話二話を一緒に収録してもらって、っていう風に考えていたので、二話と四話と六話をやってくれる人!という。

―――編集さんも募集するんですね。

椎菜:今回募集しても集まらなかったので、依頼をして「やってくださいませんか」って。

――― 一回の企画で完結までどれぐらいの時間がかかるんですか?

椎菜:どうなんでしょう。話の長さにもよるのでこのくらい、というのは難しいですね。それに、あんまり計画通りに完成しているところというのを見ないです(笑)めったに見ないんですけど、早いところはほんとに早いですね。

ボイスコさんと!

―――では、どういうふうに声優さんを選んでいくのかを伺ってみたいと思います。あ、ボイスドラマの声優さんを「ボイスコ」(ボイス・コーポレーター/音声提供者)と呼ぶんですよね。先程から何度かでていた「応募」というもの、これはどういうものなんですか?

椎菜:作品に協力してもらうボイスコさんを見つけるには「こちらからお願いにいく」という方法と「ボイスコさんのほうから来てもらう」という二種類があるんです。前者が「依頼」後者が「応募」です。募集サイトに、例えばボイスコさん何名募集していますだったり、シナリオ書く人がほしいですとか、そういう情報を掲載すると、そこから「やりたいです」といって来た人が、サンプルを添えて、応募してくるという形ですかね。

―――募集サイトというのがあるんですね。どういう物なんですか?

椎菜:あ、難しいですね(笑) しいて言えば、求人情報サイト?(笑)

―――求人情報サイト、同人の求人情報サイトですか(笑) いいですね、このネーミング。そこに登録すると、どういうメリットがあるんですか?

椎菜:あくまでも私の意見なんですけど、登録するのはある種の宣伝を兼ねているなって。ボイスドラマって、こちらからアピールしないと誰も聞きに来てくれないんですよね。募集サイトに登録するのは「今こんなのやっているんだよ」というのを作品が完成する前にお知らせする役目も兼ねてると思っています。

―――それって、ボイスドラマの聞き手として同じボイスコ仲間を意識しているということですか?

椎菜:私、最近までボイスコしかボイスドラマ聞いてないと思ってました(笑)

―――えっえええ~~!(爆)

椎菜:(笑)

―――そ、それじゃあ気を取り直して(笑) 具体的にどうやって声優さんを選ぶんですか? 

椎菜:オーディションと依頼と、両方やったことがあります。まずオーディションのほうから。先ほど話した求人情報サイトに「キャストさん欲しいんですけど」と記事をだします。募集する時には共通の選考台詞というのがキャラクターごとに設定してあるんですが、それを収録してもらって、メールで送ってもらいます。これが「応募」ですね。その中から色々な要素を考慮して選考を行います。まぁ、一人でパソコンの前で音声聞いてるだけなのでオーディション、という感じはしないんですが。

―――その時に、「この人っ!」ていう決め手になるものってなんなんですか?

椎菜:決め手は、募集する時は「イメージが一番重要」といってます。けど実はイメージと同じくらい、他のキャラクターとの声のバランスを重視しています。本当はこのキャラクターのイメージはもう少し声が高めなんだけれど、これ以上高くすると他のキャラと声がかぶってしまうから、じゃあこの位の高さでという。

―――ということは全員の声を聴き比べながら、選んでいくんですね。一人ずつ突出した人を選ぶということではなく。

椎菜:質面などでごめんなさいの人もいるので、まずは一人ずつです。プレイヤーに同じ選考セリフを入れていてばーーっと一気に再生するっていうやりかたでやってます。それで何人かに絞った後、キャラクター全員の声を聴き比べて最終的に一人にします。

―――なるほど。聴き比べてバランスを考えながら応募者を選択するんですね。ボイスコさんたちのボイスの収録っていうのはみんなが集まって収録するんですか? スタジオ借りたりしてっていうわけではないですよね?

椎菜:スタジオで収録するサークルさんもあるんでしょうが、うちの場合はそれぞれに自宅などで収録してもらって、出来上がったファイルを送ってもらうんです。

―――じゃあ宅録環境があってのボイスドラマなんですね。それを編集したりっていうのは椎菜さんの仕事なんですね。ソフトとかは有料のものをお使いに?

椎菜:そうですね。ソフトはフリーのソフトを使っています。

―――でもなんかこれ、送られてきたデータの質が違うとかってあるじゃないですか。なんか、ボイスとかで困ることありますか?

椎菜:ありますあります。だけど音質の調整よりはもっと別の部分に力を入れたいなと思っているので、お願いするボイスコさんを選ぶ時点で、「私の力じゃどうしようもないな」ってくらいにノイズが酷いデータは、演技がよくても「ごめんなさい」っていう形になりますね。

―――じゃあ選考の段階にそういった要素も織り込まれてるんですね。